最高のリーダーは何もしない?

藤沢久美氏著「最高のリーダーは何もしない」を読んだ。

まあ、リーダー論、組織論というものは昔から巷に溢れているので、その類の1つであはある。

過去、組織論として読まれてきた作品としては、有名なところではドラッカーの「マネジメント」やカーネーギーの「人を動かす」は古典的名著と言っても良いだろう。

日本の著作であれば松下幸之助の「リーダーになる人にしっておいて欲しいこと」や「失敗の本質」などもあるだろう。

最近ではスポーツの世界からヒントを得ようと言う流れがあるようでラグビーエディー・ジョーンズや野球では工藤公康、などの関連が今は旬だろうか。

これらのリーダー論については違う見方もあれば共通する部分ももちろんあって、と言っても自分も全てを読んでいるわけではないので偉そうなことは言えるわけではないけれども、そのずれている部分というのは時代によりちょっとずつ変化しているように思われる。

また、メジャーな本というのは実際に組織のトップに経った人が自分の経験から語っているものが多いのであるが、この辺りについては名プレイヤーが名監督に非ず、などと言われるのと同じで、リーダー論のプロの方が有用な場合もあるのかな、なんてことは思ったりする。

もっとも、組織を動かしていく上でリーダーが鍵になるというところは今も昔も違いはないと思うし、本を読む上では著作者が誰であるかよりも、その中身が大事であることは自明の理であろう。

しかし、以前のリーダー論と最近のリーダー論、あるいは組織トップの人が書くものと、外部から見た人が書くものとで多く見られる違いもある。

その中で特に最近、際立っているのがリーダーと部下との関係性であると思う。

従前のリーダー論であれば、その論は「ぶれないこと」「公平に評価をすること」「能力を見極めること」「機会を与えること」などが中心であったかと思う。

これらのことが以前と違いがあるわけではないけれども、今のリーダー論はこれらに加えて「部下との信頼関係を構築すること」「部下の将来への不安を取り除くこと」「コミュニケーションを密接にすること」「失敗を許容して、次へのチャレンジへと結びつけること」などが求められている傾向にある。

これは社会がどんどんと複雑化していて業務マネジメントが難しくなっていることや時代の変化が早くなってきているために上司たる人物が以前持っていたスキルが陳腐かして通用しなくなる傾向があるため、というところが大きいだろう。

つまり部下が何をどのようにすれば仕事が上手く回っていくのかについて上司が全てを把握できていれば、仕事をどのようにすすめるかについては上司が範を示して、あるいは説明していけば進んで行っただろう。

しかし、今はそうはいかない領域というのがどんどんどと増えてきている。

あらゆるビジネスでSNSを始めとしたインターネットで情報発信は必要不可欠になってきているし、ビッグデータ解析というのもどんどんと使われるようになってきている。

結果として、それらの情報に接する機会の多い立場の人物やそれらの情報編集能力・解析能力に長けた人物が、正解を早く導き出せることになる。

結果、上司として求められる能力も、ネットワークがある以前とはすっかり様変わりしてしまっているわけである。

と、前振りが長くなってしまったが、そういう時代の変化の中で求められるリーダー像を示すのが本書である。

面白かったのは以前であればリーダーというのは、時には嫌われ役になる、という面が会ったのだが本書の中では「嫌われるリーダー」ではなく「好かれなくてもいいが、嫌われないリーダー」というリーダー像を提示している。

これは現代のリーダーが「ビジョン」を共有することが大事であるということが背景にあるだろう。

ぐいぐい引っ張っていくタイプのリーダーであれば嫌われてでも1つの方向に向いていくことができればいいのだが、社会が多極化している現代においては一方向に向かうだけでは上手くいかない場合もある。

様々なところにセンサーを張り巡らして、チャンスがあればどんどんとチャレンジしていかなければならないこともあるだろう。

その場合、当初目指していた方向とは違う方向に向かうこともあるが、その時にはビジョンを示しておき、その範囲であれば進んで行って良いと示して置かなければスピードを持った意思決定ができないであろう。

本書は、そういう論理的なところまで踏み込んで行くという本ではないけれども、様々な実例を引いて説明をしているので、なるほど、と膝を打つことも多い。

また、この本のようなリーダー論であるが、必ずしも組織のトップの人が必要としているわけではないだろう。

ある組織で何年か経験を積んでいくれば、小さな部門のリーダーになることも少なくなはないはずだ。

そういう小さなレベルであってもリーダーとしての振る舞いは求められるはずである。

そういう時に現代的リーダー論の入り口として一助になるだろう。

もっとも、論理的であったり体系的であるわけではないので、気楽に読めるリーダー論の読み物と言ったものであるので、ちょっとした通勤時間の合間やふとした休みに軽く読むというのが向いているだろう。