自動運転のもたらす未来は①

自動運転がここ最近になって急に話題になってきた。

以前よりGoogleが自動運転車を開発していることは知られていたが、去年あたりから急激にニュースにも取り上げられるようになり、各自動車メーカーが開発している自動運転車の状況についても次々に報道されるようになった。

実際に2016年になってテスラのモデルSがモデルチェンジでソフトウェアアップデートにより部分的自動運転が可能になることになり、さらには日産が高速道路における同一路線限定ではあるが自動運転車を投入を発表。

今後で言えば2017年には日産は高速道路の進路変更が可能な自動運転車を投入することを宣言しており、トヨタを始めとして他のメーカーも2018年以降には同等の車両を投入するとされている。

そして、2020年を目標に複数のメーカーが、一般道まで含めた部分的自動運転の実現を目指していると言われており、一気に自動運転の実用化がなされるだろうとの予測もある。

さらに、これを後押しするように政府が自動運転を実用化するために特区による実証実験を推進しており、2017年からは自動ブレーキなどを搭載した車両の任意保険を割り引く制度が開始される見通しであるなど、様々な面から自動運転の実現に向けた動きが広がっている。

そんな自動運転であるが、どんな技術があるのかであるとか、どのタイミングで実現されるであろうかということは様々に予想されているが見通しはばらつきがある。

ましてや、実際に自動運転の社会が実現した場合にはどのような社会的なインパクトがあるのかということが語られることは少ないように感じる。

自動車はシェアリングされる環境へ向かうであるとか、免許も必要なく飲酒しても車に乗れるようになれば生活が激変する、なんて話もあるが、それは完全自動運転が実現される頃の話であるので、短くても15年以上先のことになるだろうし、一般に普及するとなるとさらに年月を要するだろう。

ということで、そこまで先のイメージをすることはなかなか難しい。

よって、それに至る以前にどんなことがあるのかということを少し考えてみたい。

 

さて、自動運転がどのように社会に影響を与えるのかを考える上では自動運転がいつ実現するかということも大事であるが、どのくらい普及するかということも大事になってくる。

世の中に完璧に自動運転できる車が存在したとしても普及率1%では、それが与える影響というのは限定的にならざるをえない。

そういうわけで今後の普及率の予想についての資料をネットで探ってみたのだが、世界的な普及率予想というのは数字が幾つか見つけることが出来たのだが、日本国内における予想というのは見つけることが出来なかった。

これは民間団体における普及率予想というのがビジネスベースの話を前提としているために、世界規模の話が中心となるからだと思うが、それでは日本における社会的な影響度は推測できない。

というわけで幾つかの公開資料から日本における普及率の推移を予測してみた。

 

まず、自動運転と言っても段階が幾つかに分かれている。

自動運転の定義の分け方についてはアメリカの運輸省交通安全局(NHSTA)が示しているものを基本として考えていきたい。

その定義ではアクセル、ブレーキ、ハンドルの操作のうち、いくつを自動化しているかということで定められており

レベル1 アクセル、ブレーキ、ハンドルの1つが自動化されている状態。一般的にはブレーキのみが自動化されている衝突被害軽減ブレーキが想定される。

レベル2 アクセル、ブレーキ、ハンドルの2つが自動化されている状態。一般的にはアクセルとブレーキを自動化した前車追随のクルーズコントロールが想定される。また、運転手に緊急事態が生じた際に路肩に車を寄せて車両を停止させるデッドマンシステムもここに含んでいいと思うが。

レベル3 アクセル、ブレーキ、ハンドルの全てを協調制御している状態。いわゆる一般にイメージする自動運転の状態であるが緊急時には人が介入することが求められる。

レベル4 アクセル、ブレーキ、ハンドルの全てを自動制御されており、さらに人間の介入が必要ない完全に自動運転を実現した状態を言う。

このうちレベル1と言われる自動ブレーキなどのレベルはすでに実用化がされている。

代表的なものはスバルのアイサイトであるが、それ以外にも各メーカーから様々なタイプが発売されていて、普及は急速に進んでいる。

実際、日産はすでに主要車種に自動ブレーキの標準装備化を行っているし、スバルも販売数量の8割以上がアイサイト搭載となっている状況にある。

とは言っても新車販売の大半が、自動ブレーキ搭載車になったとしても既存の車両との置き換えがすぐに進むわけではないので、買い替えとともに徐々に進んでいくという事情があるのも事実である。

そのような状況にあるものの2016年以降の新車販売は大半が自動ブレーキ以上の自動運転機能を搭載すると考えると一気に普及していく可能性は高い。

予想される普及率は、様々な予想はあるが2015年時点では10%弱程度と予想される普及率が2020年までは新車販売の8割以上に自動ブレーキが搭載され、それ以降の車両は大半が自動ブレーキに対応する(改正道路交通法でいう準中型以上の貨物車は2021年には義務化される)ことを考えると

2020年 30%以上

2025年 60%以上

2030年 90%以上

と言った推移になることが予想される。

もっとも100%にはなかなかならないだろうし、二輪車などについては運転補助機能が搭載されるのは2020年代以降と予想されるので世の中の車両全てということではないが、四輪車が全体の中の比率が圧倒的に高いことを考えると、この普及率は大きいだろう。

 

この自動ブレーキのような機能に対する普及率予想は、そんなに大きく外れることはないだろうと思われる。

なぜなら今後2-3年でほぼ標準装備化して、既存の車両と入れ替わっていくので、その入れ替わるペースを予想するだけだからである。

しかし、ここから先のレベル2以降になってくると予想が入り乱れているなというのが様々なシンクタンクが発表している数字を見た印象だ。

これらがどうなるかについては技術的な問題だけではなくて、社会的に自動運転を受け入れられるかということや政治的に様々な課題を普及を妨げないように解決していけるのかということがあるので、容易ではない。

しかしながらレベル2について言えば、レベル1で実現している機能の高度化ということで考えれば意外に早く普及するのではないかと思っている。

実際に、前車追従クルーズコントロールなどはすでに標準装備している車も少なくはないし、基本を人が運転するということをベースにしているので、ある程度人が運転に関与しなければ自動運転状態を解除する、あるいは人が居眠り、病気で運転できない等の事象が発生していると予想して、徐々に速度を下げながら安全な場所を見つけて停車するなんて機能を組み込むことで、かなり有効性が高いとして受け入れられるだろう。

先に書いた普及率の予測から遅れること2、3年程度で同等の普及率が実現される可能性も高いと思う。

一方で、レベル3ということになると事実上は完全自動運転の世界であるために、これ以上の段階の普及については、予想が難しい。

もっとも、レベル3についてはすでに実現化している自動駐車システムであるとか同一車線内での進行を基本とした高速道路上における自動運転から始まり、車線変更も含める自動運転に、一般道における自動運転と段階が様々に分かれているので、どの段階を想定しているかによってもかなり違ってくるだろうとは思う。

そんなわけで予想が難しいレベル3ではなく普及が確実なレベル1、2の自動運転が普及していった場合のインパクトを中心に考えてみたい。

レベル1の自動運転がもたらす効果として一番分かりやすいものは、交通事故の減少ではないだろうか。

現在は自動運転の技術としては衝突被害軽減ブレーキや車線逸脱防止支援システム、後側方衝突防止支援システムなどがある。

このうち衝突被害軽減ブレーキについては、追突や対人の事故を防止することができるし、レーンキープアシストについては正面衝突や単独事故を防止することができる。

出会い頭や右直事故などを防止するには技術がまだまだであるが、これらを防止する技術についても、様々な方法があり一部は実現しつつある。

それらの様々な技術が、自動運転実現のためという方向で進んでいるのだが、衝突軽減ブレーキのように、それが目的であるものだけではなく、副産物としてであるものも含めて交通事故の減少に寄与する技術となっている。

例えば衝突被害軽減ブレーキについて考えてみよう。

衝突軽減ブレーキでは主に追突事故を防止することになるが、追突事故の9割以上が時速50km以下で発生している。

これに対して最新の衝突被害軽減ブレーキについては条件によるという前提はあるものの時速50km以下の場合は衝突を回避することができるようになっている。

統計データでは、追突事故は人身事故件数の3分の1を占めており、その9割以上が認知速度50km以下であるので、全ての車が最新の衝突軽減ブレーキを採用すれば、それだけで人身事故件数の3割近くは減少できることになる。

また、車線を逸脱しての正面衝突や車両単独の事故はレーンキープアシストで減少させることができるし、クルーズコントロールがあれば車両進行中における追突事故であるとか、速度超過による事故が防止できるのではないかと期待できる。

また、最新の衝突軽減ブレーキは対自動車だけではなく歩行者や自転車についても認識することができるようになっている。

歩行者や自転車の事故をどのくらい防止できるかについては細かい統計数字が存在しないため分からないが、スバルの発表したところによればアイサイトver.2搭載車両については対歩行者事故が49%削減しているという。

現在発売されいる車両で対歩行者の衝突防止支援システムはスバル除くと搭載比率が低いが、衝突軽減ブレーキが標準化が進み機能の選別がされるようになると、対歩行者の停止機能も標準化されるのではないかと思う。

そして、死亡事故件数の3分の1を占めている人対自動車の事故の一部でも減らすことができれば、それだけでも多くの人命を救うことに繋がっていく。

これらを考えると現在までに実現している技術だけで交通事故を半数以上減少させることができる可能性は高い。

さらにヘッドライトの自動点灯の義務化やハイビームとロービームの自動切り替えの搭載、バックモニターなどの後方安全確認装備の義務化、カーテンエアバックや後席エアバック、歩行者用エアバックなどの充実など自動運転以外の要素でも交通事故や発生時の被害を軽減する要素は増えており、実際にはもう少し事故発生件数も減らせるだろうし、事故発生した場合でも被害を軽減できるようになってきている。

ちなみに、交通事故による被害は2015年は死者数4117人、負傷者数67万0140人となっており、物損事故については正確な統計数字はないものの内閣府などの資料を見ると届け出のある件数では年間500万件程度である。

交通事故死者・負傷者が1人いれば、その当事者はもちろんとして、その家族・友人・職場関係など、関係する人々はその何倍といるわけで、それは人々の生活・人生に与える影響は決して小さくはない。

また、経済的にも交通事故による経済的損失については年間に4兆円程度とも言われており、これも小さい数字ではない。

これらが半減、あるいはそれ以上に減らせる、というのは素晴らしいというよりほかないだろう。

 

これら死者数の減少や経済的損失は事故が減少することによる直接的な影響であるが、自動運転技術のもたらす間接的影響も様々にある。

1つは現在問題になっている高齢運転者による交通事故だ。

ニュースで取り上げられるのは様々な病気により、繁華街で歩道などに乗り上げて事故を起こすケースであるが、それ以外にも高齢運転者による事故というのは多く発生している。

しかし、その一方で高齢運転者による事故は事故時の速度が低い傾向にあり、レベル1程度の自動運転技術により防ぐことが出来るものが多い。

と、ここまでは直接的影響レベルの話になってくるが、これらの技術により高齢運転者の事故を防ぐことができれば、高齢者の運転を継続させていく手助けになる。

特に、衝突被害軽減ブレーキとレーンキープアシスト。

それに加えて現在は実用化前であるが、運転手の状態を判断する人工知能技術を組み合わせることができれば、多少認知機能に不安があっても運転における危険性を大幅に軽減することが出来る。

高齢者が運転を継続できることは、超高齢化社会に向かっていく日本においては非常に重要な事である。

もし、外出するのに制約が大きくなれば誰かの補助が必要になってくるし、行動範囲が狭くなればそれだけ外部の人との付き合いが減少したりすることになるため、認知機能や身体機能の低下に繋がる可能性も高い。

その結果として、運転を継続することが高齢者自身の生活の質を上げることはもちろん、それらを取り巻く人たちにとっても負担は軽くなるし、社会全体にとっても高齢者を支える負担が減少することに繋がるだろう。

すなわち、自動運転技術がこれからの日本に迫る超高齢化社会を支えていく基盤の1つになっていく可能性は高いということだ。

一方で車の使い勝手がよくなるということは、それだけ車の利用頻度や依存度が高くなるということになるのだが、レベル3以降の自動運転に比べると、そこまで劇的な変化をもたらすというものではないと思うので、それは次以降に検討したい。