統計の使い方

SmartNewsでニュースを見ていたら、こんな記事を見つけた。

ironna.jp

まあ、記事についてはネットニュースでは釣りが多いので、これもそういう記事だろうと思ってみたら、中身も「煙草は健康に悪くない」と主張するかのような記事だった。

が、その論理は随分と乱暴で久しぶりにこんな記事を目にしたなと思う。

記事の中で煙草が体に悪くないという主たる主張の根拠となっているのは1970年台以降に喫煙率が低下しているのに、肺がんで死亡する人が増えているということと、肺がんの種別の変化と言ったところである。

詳しい主張は記事を見てもらえると分かるが、喫煙率の低下と肺がんによる死亡者数は見事な逆相関になっているように見えるため、一見するとなるほどと思いたくなるかもしれない。

しかし、肺がんによる死者数が増加するのにはいくつかの理由がある。

まず、第一には近年は高齢化が進んでおり死者数そのものが増加しているので、肺がんによる死者も必然的に増えている。

第二に、医療衛生環境の向上により他の死因による死者数が減少していることがある。

戦前、戦中には結核と肺炎が死亡の主たる要因であったが、戦後は悪性新生物と心疾患、脳血管疾患の3つが死亡の主たる要因になっていった。

しかし、近年では心疾患と脳血管疾患については生活習慣の改善などにより死亡率が低下しているものの悪性新生物、いわゆるガンについては有効な対策が見つからないため死亡率が低下せず、相対的に死者数が増加している。

第三に、日本人の寿命が伸びていることがある。

寿命が伸びるとその分だけガン化した細胞が体内に蓄積するため、それが増殖してガンとして病気が発症する可能性が高くなるため、相対的に死亡原因の上位に来ることになる。

これらガンの死者数が増加する原因が様々にあるにも関わらず、煙草の喫煙率の低下とガンの死亡者数の増加だけを単純に比較するというのは問題がある。

また、喫煙による死者数とガンの発病との関係については時間差があることについても記事の中では全く触れられていない。

例えば20歳の人が喫煙習慣があるとして、その人が死亡するリスクが高まるのがいつなのかというと、それはそこから先数年はほとんど影響がないどころか、10年先、20年先にもほとんど影響がないだろう。

しかし、30年、40年と時間を経るに連れてその死亡リスクは高まっていく、というのが現在の通説である。

それは逆に言えば非喫煙者が、喫煙者と比較して死亡リスクが低下するのにも何十年という時間が経過した場合に始めて発現するものである。

具体的に社会全体の喫煙率の変化がどのように死亡率に影響するのかというのは難しい問題である。

しかし、時間差が有るということはよくよく考えなければならない。

例えば、20歳代成人男性について言えば喫煙率は1980年以前は80%代であった。

その後、1980年代の喫煙率は70%代だったが1988年を最後に70%を割り込むと、2001年に60%を割り込み、2006年には50%を割り込むという具合に急速に低下してきている。

このように喫煙率は年々低下しているが、その低下が始まったのは1980年前後であり、その頃に20歳代だった人は、まだ60歳前後で死亡者数全体に与える影響は大きくない年代であるし、顕著に喫煙率が下がってきた年代というのは、せいぜい今の40代以下であるので、それらの世代が喫煙による死亡者数の影響を見るにあたっては、年代の中での死者数はともかくとして、全世代での死者数を考えた場合、そこに与える影響は小さいだろう。

具体的に、これらの喫煙率の変化が死亡率にどの程度影響を与えるか、というデータはちょっと見つけることが出来なかったが、高齢化という要因を除いた場合のガンによる死者数の推移というデータを見つけることが出来たのでリンクしておく。

ganjoho.jp

これによればがん患者自体は増加しているものの、それは高齢化が主たる原因であり加齢要因を除いた場合には近年は低下傾向にあるということを示している。

もちろん、これだけで喫煙とガンとの関係性を立証できるはずもなく、実際には様々な研究が行われたことにより現在の通説は成り立っているのだが、それを否定しようとするには元記事は根拠が不足していると言わざるを得ないだろう。

最近はやりの水素水といい勝負かとも思うが